今年度は、西ゲルマン語類型論の立場から、西フリジア語の名詞抱合について考察した。これはゲルマン語、あるいは印欧語として特異な現象であり、類型論的に興味深い題材を提供し、他言語の研究者からも好意的に迎えられた。また、ゲルマン語類型論の全体的な構想をまとめることにも努力し、低地ドイツ語の歴史からも題材を求めて、多角的に研究を進めた。その結果、裏面の業績表に示したように、論文3点を発表することができた。大きな目標だったウイーン開催の国際ゲルマニスト学会(IVG)での研究発表は、校務の都合上、日程的に無理が生じたので果たせなかったが、そのかわり、日本言語学会第121回大会(11月25日、名古屋学院大学開催)において、「西フリジア語の名詞抱合の特徴と抱合動詞の形成」と題する研究発表を行なった。 もっとも意義が深かったのは、海外旅費を活用して、9月にアイスランドと北欧スカンジナヴィアに出張したことである。とくにアイスランド大学シーグルズル・ノルダル研究所(Stofnun Sigurδar Nordals)において研究計画についてレヴューを受け、一部の研究成果について議論を行なった。フリジア語と同様のマイナーなゲルマン語でありながら、地理的・政治的な理由から言語的アイデンティティーが強固なアイスランド語の生態は、社会言語学的にフリジア語との比較から非常に示唆に富むものだった。そのさい、北欧4カ国の代表的な大学図書館でゲルマン語関係の資料調査を行なうことができたが、従来のドイツ、オランダへの海外出張では得られなかった文献を大量に補う点で、きわめて有効であった。国内での文献情報が非常に乏しい本研究分野によって、海外旅費の活用は必要不可欠な使用用途であり、これを積極的に活用したことが、今回の成果に最大の貢献をもたらしたといえる。
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