本研究の主たる目標は、ドイツ語、オランダ語、フリジア語(Frisian)を含むいわゆる現代西ゲルマン語(West Germanic)の文法的構造にかんする組織的な対照研究を行い、ゲルマン語-とくに西ゲルマン語類型論の構築をめざすことにあった。そのさいの重点は、西・北・東の三つの下位グループに分かれ、歴史的に北海ゲルマン語(North-Sea Germanic)の唯一の後裔として位置付けられるフリジア語、とりわけ、オランダ・フリースラント州(Provincie Friesland)で約40万人の話者に用いられる西フリジア語(西フ.Wester-lauwersk Frysk)に置かれた。本研究から得られたもっとも重要な成果は、次の三点に集約される。まず第一に、ゲルマン語類型論の方法論的可能性にかんする概説的論考、第二に、関連するゲルマン諸語との比較を豊富に盛り込んだ西フリジア語の文法構造についての一連の論文(とりわけドイツ語、オランダ語と対比した同言語の名詞抱合(noun incorporation)は特筆に値するテーマである)-、そして、最後に、ドイツ語、オランダ語、英語といった隣接するゲルマン語への言及を配慮したオランダ語の音韻構造についての概観である。以上の研究は、さらに、北ゲルマン語の接辞定冠詞(cliticized definitearticle)の形態論的考察にも及んだ。本研究は従来、ゲルマニスティクの枠組みから看過されていた日本のドイツ語学、ゲルマン語学の領域を本質的に拡大することに成功したと言える。また、北ヨーロッパの複数の研究機関を直接訪れることによって、主要な研究者と積極的に交流したこともきわめて大きな意義があった。
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