初年度の活動としては、文献収集整理と研究成果への準備、演劇と研究の現場への多様な協力を行なった。 1. 平成十(1998)年は現代演劇の変革者プレヒトの生誕百年で、世田谷パブリックシアターで全五回のレクチャー「プレヒトの演劇世界」、および同劇場での宮崎真子演出による改作『アンティゴネ』と松本修演出による『ガリレオの生涯』の上演台本を翻訳。その機関誌にドイツにおけるプレヒト受容に関する論文や松本修へのインタヴューを寄稿。朝日新聞に「古典になったプレヒト-生誕百年に寄せて」を、生活クラブ生協機関誌にも「プレヒトの『子供の十字軍』」を執筆。十月の日本独文学会では「プレヒト100」のシンポジウムを企画・司会、演出家で劇作家の佐藤信も参加し、演劇の研究と現場の交錯としても意義深く、報告は学会誌に掲載。 2. プレヒトの後継者ハイナー・ミュラーに関連して、東横短大の公開講座「演劇の復権-新しい表現のパラダイムをめぐって」で「『ハムレット』と『ハムレットマシーン』の間」を講演、その原稿が「女性文化研究所報14」に掲載。また錬肉工房による『ハムレットマシーン』の上演台本と上演パンフ、ポストトークにも協力、さらに図書新聞に「谺しあう謎-異文化との新たな出会いを拓いた錬肉工房の『ハムレットマシーン』」を寄稿した。現代の演劇と舞踊の接点としてのピナ・バウシュについても雑誌「バレエ」に論考を発表した。 3. 日本独文学会の編集委員として学会誌一〇三号でドイツ現代演劇の特集を企画し、進行中。静岡で開催される「第二回シアター・オリンピックス」の「ハイナー・ミュラー写真展」などにも協力している。 申請書に記したドイツ現代演劇研究者としての演劇の研究と現場への貢献・協力という意義は十分に果たしていると思うが、それをさらに自らの研究上の成果としてまとめる作業が、次年度に残されている。
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