本研究3年度目に当たる平成12年度は、全般として、「1990年代」という研究対象となる時代を、ドイツの戦後、さらには20世紀文化のなかで相対化してゆく方向性を意識的に打ち出していった点におおきな進展があった。 作業のうえでは、前年度までの基礎資料収集を継続するとともに、本科研費交付を得る以前より行われてきた本課題と密接に関連する研究会をより発展させ、さらに、いくつかのかたちで研究成果を公にしていった。 1基礎資料の拡充・整理 雑誌・新聞・WWWなどからの資料の収集は、今年度分に限られた。 それと並行して、これまで集められた資料のうちから未整理のもののファイル化が試みられた。書籍、新聞・雑誌記事などのPDF形式による保存を試行したが、まだ軌道に乗っていない。 2研究会の継続 上記1で収集・整理された資料を活用して、ほぼ1カ月に1回の割で研究会を継続した。研究代表者・分担者の他にも毎回数名の研究者(都立大学教員、オーバードクター生、大学院生等)を迎え、「90年代文学の諸特徴」、「トマス・ブルスィヒをめぐって」、「ファンデルベーケとフェミニズム」、「〈故郷〉を求める新しい動き」他、計10回の研究会を開いた。 3研究成果の公表 これまでと同様に論文のかたちで成果を世に問うた他、日本独文学会春季研究発表会の場でシンポジウム「〈戦後文学〉を越えて-1989年以降のドイツ文学」を開催、そのなかで、本研究を踏まえた発表「〈戦後文学〉の終わり?-90年代文学のいくつかの特徴」を初見が行なった。 また、初見は、都民カレッジにおける10回にわたる講座「ドイツの傷」、戦後ドイツ文学に焦点をあてた、朝日新聞社刊週刊百科「世界の文学」第76号責任編集・執筆などを通じて、研究成果の社会への還元も試みた。
|