本研究「日独言語行動の対照社会言語学的考察」では、平成8年3月から平成9年3月にわたり文部省在外研究員(長期・若手)としてドイツのデュースブルク大学に留学した際に収集したデータを見直し、電子化した形で入力した後、音声上の特徴を転記した。また、日本でも、ドイツで行った調査と同じ枠組みの調査を実施し、文字化した。 これらのデータを部分的に分析し、1999年10月1日にフランクフルトで開催された第30回応用言語学会で発表した。そこでは、日本語とドイツ語のコミュニケーションにおいて、どちらもブラウンとレヴィンソンのいう、ジョークなどのいわゆるポジティブポライトネスが「丁寧」と評価されたこと、さらに、方言をともなった表現が必ずしも「丁寧」であることを損なわないことなどの分析結果を述べた。この発表内容は本研究と密接な関係のある"Hoflichkeitsstile"という一冊の論文集に掲載されることになった。 また、本研究の理論的枠組みの一部を日本語で書き改め、補足を加えてまとめた。この論文は、『批判的社会言語学-「正しさ」への問い』(仮題)という論文集の一つとして出版される予定である。そこではおもに日本語とドイツ語の「敬語」の比較対照の可能性および日本の敬語研究における問題点を示し、本研究の調査結果をふまえ、敬語研究にも言語がたんに社会的・心理的関係を静的に反映するばかりでなく、人間関係を構築するダイナミックな機能があることを考慮する必要があることを指摘した。
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