本年度の研究実施計画として掲げたもののうち、次の項目を研究することができた。 1. 水田は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて「有機体」が「機械」と並んで近代の枠組みの表象として登場する端緒を、美学思想という場で見きわめることを試みた。「有機体」という表象が重要な観念として役割を果たすようになった機縁は、18世紀後半にヨーロッパにおける自然観の変容と関連する。つまりそれまでの古典ギリシャの芸術を典型とする静的な美の規範を破壊・解体する「崇高美」を自然のなかに発見していく過程である。それをエドモンド・パーク、カントの「崇高論」に辿ったが、これにより「有機体」が先のような意味で重要な観念として誕生する時点を跡づけることができた。 2. 廰は、 「個と全」の支配なき「有機的」統合というドイツの社会理論を一貫して規定しつづけた理想と、19世紀以降テンニース、ジンメル、ウェーバーらの社会理論がいかに対処、対決したか、という構図のもとで研究を進めた。19世紀以降のドイツの「有機的」発想は、 「個と全」の対等の相即性の理想を共同体と国家の概念において問うたが、結果としては、個に対する全体の絶対的優位を説く“holistic"(全体論的)議論に終始した。その過程をヘーゲル、シェリング等の社会思想を辿ることにより跡づけた。それにより、「有機的」な発想の本来の理想を継承しつつも、これとリベラルな社会学的現実主義を結合しようとしたテンニース、ジンメル、ウェーバーらの試みの継承と批判の二面性が明らかになった。 3. 以上の研究を相互に検討することにより、我々は、「有機体」という表象が動く場を、自然-芸術-社会という3つの次元に分節して以降の研究をすすめることを確認した。
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