本年度の実施計画として掲げたものは、「有機体」表象を自然-芸術-社会という三つの次元に分節して探求することであった。そのうち、次の項目を研究することができた。 1.水田は、まずシラー、シェリングの悲劇理論が、前年度に焦点にした「崇高」概念の発展として展開されてきたことを研究した。カントにおける崇高概念の導出には理性概念が決定的な役割を割り振られていたが、それとの大きな相違として、悲劇論では理性と感性との総合として美が提出されていることに、悲劇論への展開の重要性を確認した。次に彼らのフランス革命論を主な探求対象として、この悲劇概念が美学的含意を超えて社会的ポテンシャルを含むこと、とりわけ啓蒙、理性という観念に導かれた近代と対抗した社会像の提出という意味を持つことを確認することができた。 2.庁は、今年度は「有機的な」美的国家観と社会学的現実主義の対立を、個々の具体的な思想家に則して追及する作業に着手した。とくにジンメルにおける「有機的な」社会統合をめぐる現実主義的立場について詳細な分析をおこない、その成果の一部を研究報告としてまとめた。
|