我々の研究目的は、ドイツ・ロマン主義の提示した近代への批判的問いとその思想的帰結を、そこでの「有機体」という概念に着目して検討することであった。 1.水田は、芸術思想史的視角から、カント、シラー、ヘーゲルからドイツ・ロマン主義、さらにはベンヤミンに至る流れにおける「有機体」という概念の展開を追った。これにより「有機体」という表象がロマン主義における美的思考の核心的概念であるとともに、この表象が人間の集合的結合形式の問題にも適応され、法や国家、社会をめぐる社会哲学的思考にも融合していったことを、ベンヤミンなどに即して解明した。 2.廰は、社会理論史の視角から、ロマン主義の影響をうけたミュラー、テンニース、ウェーバー、ジンメルなどの社会思想を「有機的」という概念の位置と性格に注目しつつ検討した。社会理論的には「有機的」という概念は、モダンな社会的結合様式に対立するものとして捉えられるが、やがてその観念が、芸術的創造性の契機を重視した「日常」や「生活世界」という概念に一括される過程を、ジンメルを経由したN.アインシュタインにおける「日常」概念の解明などを通じて明らかにした。 こうして美的思考と社会理論における「有機体」という概念が相互に交錯することにより近代社会の機械論的結合様式への批判的原理となり、さらに20世紀のドイツ思想においては美的思考と社会批判のふたつの原理がフランクフルト学派のように一体的に結合するに至る、この過程を、水田、廰の二つの視角からの共同研究は明らかにすることができた。
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