研究概要 |
世紀末ウィーンの有力な批評家ヘルマン・バールを,単に世紀末ウィーン文化の推進者としてみなすのではなく,二十世紀へ向かっての知の動向の批評家としてみなし,世紀転換期のオーストリアやドイツの思想と芸術を新たな観点から捉え直そうとするこの研究にあって,今年度は主として,ユダヤ人問題,分離派,ドイツ神秘主義の三点について探究した。 ユダヤ人問題に関しては,バールが当時のヨーロッパの知識人に対して行ったインタビュー集『反ユダヤ主義』の内容を検討し,あわせて彼の他の著作の関連箇所も調べた。また『ユダヤ新百科事典』を精読しこの問題について知識を深めた。 分離派に関しては,バールの評論集『分離派』に収められている「日本展」と題する評論を,同時代のウィーンの他の作家のものと比較しその意義を考察した。またオットー・ヴァーグナーの建築に見られる「夢」の要素を世紀末ウィーン文化全体の中に位置づける試みも行った。 ドイツ神秘主義に関しては,バールが当時の現代的傾向の文化を擁護するのをやめてカトリック神秘主義的傾向を強める転換期に著した評論集『総点検』の中に,正統的なキリスト教ではなくドイツ神秘主義に拠り所を求めた文章があることに着目し,マイスター・エックハルトのバールへの影響を確かめた
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