研究概要 |
本研究課題を申請するに当たって、「研究目的」と「研究計画・方法」に記したように、本研究初年度においては、資料の収集と分類・整理が中心的な作業となった。資料収集に当たっては、その資料源としてドイツの新聞のマイクロ・フィルムを入手することによって行うのが一番効率的であると考えた。イディオムを下敷きにしたカリカチュアがどれほど描かれているかという点から資料となる新聞を選定した。現行のドイツの日刊、週刊新聞で、政治的カリカチュアが掲載されていない新聞は、きわめて希である。しかしながら、本研究のテーマにとって利用可能なカリカチュアが掲載されている新聞は、それほど多くはない。その理由は、カリカチュアの描き手のイディオム能力、そして想定されている新聞の読者層のイディオム能力、そしてカリカチュアが掲載されている当日の新聞の記事全体と紙面のプロフィールとの関連といった要因によって、カリカチュアの質が左右されているからである。つまり、当日の記事の内カリカチュアの描き手にとって画材として一番適切だと判断された記事に関して、その記事をさらに説明的に補足し、記憶に留めやすくするといった、いわば解説的な内容のカリカチュアが意外と多いのである。他方、当該の政治的、経済的、社会的、文化的な出来事に対するカリカチュアの描き手自身の批判的なコメントを前面に押し出しているカリカチュアもある。そして、このような方向のカリカチュアにイディオムを下敷きとしたものが多いことに気づいた。そのような観察に基づいて、資料として入手したものは、Frankfurter RundschauとBadische Zeitungである。他方、将来における研究の拡大を睨んで、ドイツの風刺雑誌の代表格゙Simplificismus″のマイクロ・フィルムも入手した。これらのマイクロ・フィルムから、資料として適切なカリカチュアを探し出し、コピーするという作業を行った。その際作業補助を稼働した。資料の整理・分類は、まだ途上にある。 研究成果としては、1998年8月に公刊された論文(Yasunari Ucda:Die Deutsche Einheit undidiomatische Wendungen in politischen Karikaturen.In:Hans Barkowski(Hrsg.),Deutsch as1 Fremdsprache weltweitinterkulture11? Wien:Edition Vo1kshochschule,1998,141-160)を挙げておく。これは、申請の際「研究業績」の1.としてリスト・アップしたものだが、校正の際に、本研究の成果を取り込む形で内容的な補足を行ったということから、本研究成果の一部として挙げておく。この論文は、本研究課題に沿ったものであり、ドイツ統一を報じた新聞記事との関連で掲載されたカリカチュアで、イディオムを下敷きにしたものを拾い上げ、ベルリンの壁の崩壊からドイツ統一に至る過程に関する論述を基軸にしながら、ドイツ語のイディオムと日本語のイディオム表現とを比較・対照しながら、ドイツ語授業における取り扱いについて考えたものである。
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