人工洞窟(グロッタ)をめぐる研究は、プラトン以来の洞窟のパラダイムが、映画、テレビ、パソコンといったメディアを支配する局面を解剖することにある。この個別研究の一環として、『イタリア篇』(同朋社、1998年)で、ボボリ公園の人工洞窟を分析した。 『オペラ座』(講談社、1997年)の図像研究を受け、『パリ篇』(同朋社、1998年)では、パリオペラ座が、伝奇小説『オペラ座の怪人』の展開したイメージにとどまらず、ヴァレリーのテスト氏などに対応しているさまを考察した。 世紀末関連では、「首を刈る女」たちの図像をめぐって、「宿命の女」という通俗イメージが、オペラ化されることで個性化してゆくさまを追った。これは、プッチーニ論(オーチャード・ホール講演プログラム、1999年)において詳述した。 さらに、図像の比較研究として興味深かったのは、17世紀における道化の図像とオランダ静物画のリアリズムの同質性であった(バッハ全集6、小学館、1997年)。ここからは、今後、西欧の広場の芸能と新世界との関わりを図像的に展開する可能性が開けた。 研究目的に掲げておいたルルス、ライプニッツを経てドイツロマン派にいたる世界の組み合わせ術については、ジョン・ノイバウアー『アルス・コンビナトリア』を出発点とすべく、翻訳を果たした(ありな、1999年)。今後の図像編集の哲学となるべき重要な出発点である。
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