研究概要 |
今年度は,西部ロマンス語に属するスペイン語およびガリシア・ポルトガル語におけるラテン語子音連続CT/kt/の変化を考察した。(西部ロマンス語の東端に位置するフランス語におけるラテン語子音連続CT/kt/の変化に関しては既に平成11年度科学研究費補助金実績報告書(研究実績報告書)にて報告済みである。) ガリシア・ポルトガル語において,ラテン語子音連続CT/kt/は/it/に変化したが,/u/が先行するとポルトガル語では/t/に縮約し,ガリシア語では/uit/は15世紀に/oit/に変化した。(ただし,ガリシア語領域の東部と南西端およびMazaricosやNegreira周辺で/uit/が保存されている。) スペイン語においては複雑で,各方言で多彩な様相を提示する。カスティーヤ方言では,ラテン語子音連続CT/kt/は/it/に変化し,11世紀よりも以前に/t∫/に変化した。レオン方言では,西部で古形の/it/を保存しているものの,中部や東部では/t∫/である。また,レオン方言領域の北端や西端に見られる/it∫/は/it/>/t∫/の中間段階であろう。アストゥリアス方言では,東部で/t∫/,西部で/it/である。アラゴン方言でも,/it/>/t∫/の変化を経験している。ナバラ方言では,固有の変化形である/it/の上にカスティーヤ方言の音形である/t∫/が覆いかぶさっている。 また,今年度は科学研究費補助金による本研究の最終年度に当たるのでラテン語子音連続CT/kt/の変化を中心としたロマンス諸言語における音形の伝播と拡散のメカニズムに関する全体的な考察も行ったが,この総括に関しては別途,報告する。
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