日本には韓国や北朝鮮にともない朝鮮本が、多く伝存する。筆者は1910年以前の刊本・鈔本の総合目録作製と朝鮮印刷文化の闡明を目的として、25年前より日本各地の朝鮮本を調査して来た。 本年度はその継続であるが、東京では国会図書館・静嘉堂文庫・尊経閣文庫・成簣堂文庫・東京大学総合図書館、関西では京都大学図書館・大阪府立図書館を中心に調査と研究を行った。 本年度は約200部800冊程の調査を終了した。筆者の調査は一部につき、28項目を対象とする、従来にない厳密なものであるため時間を要するが、調査が詳細であればある程、後の利用価値は高くなる。今年度の調査により、従来知られていなかった書をかなり発見した。例えば成簣堂文庫の『中庸章句』は、十五世紀中頃の甲寅字という銅活字で出版された書で保存がよく、此度始めて存在が確認されたものである。又この書の持主は安平大君という王子と沢入大臣供暹であり、前者は十五世紀中葉の大文化人であったが、その蔵書は一冊も知られていなかった。同書所押の「梅竹軒」という蔵書印によって安平大君蔵書と判明した。
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