昨年度は、ラ行音の障害は2つの大きなタイプに分類できることを示した。具体的には、ラ行音とダ行音が相補的な分布を示すタイプと、すべてダ行音で置き換えられるタイプである。またこの2つのタイプを、現在音韻理論の中でもっとも有力な「最適性理論」によって分析した結果、ラ行音障害は、3つの音韻制約の相互作用により、上記の2つのどちらかのタイプが現れること示した。本年度は、これら2つのタイプの障害児の獲得過程をたどり、前者のタイプにおいては、障害児は2つの大きな道筋を経て正常音を獲得し、後者にあっては、単一の発達過程を経て正常な音韻体系を獲得することを明らかにした。また分析の結果、これらの獲得過程は、正常音の獲得を妨げている、^*r-onset、Intervocalic Weakeningという、いわゆる「markedness制約」が、音韻発達の各段階で、正常音を発現させようとするFeature Faithfulnessとよばれる「faithfulness制約」に対して、ことなった相互作用をすることに起因することが明らかになり、ラ行音障害児の正常音獲得は、限られた数の「音韻制約」の相互作用が、わずか3つの変化の過程をたどるものであるとみなしうることが判明した。このように、これまでは、単にラ行音障害としてひとくくりにされてきた構音障害に対して、統一的な説明を与え、少数の因子に還元しうることを示したことで、臨床治療現場においては、ラ行音障害の診断・治療に大きな助けになると考えられる。
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