研究概要 |
本年度は,結果構文の問題に重点的に取り組んできた。特に,この構文に係わる次の三点を中心に考察してきた:(i)他動詞及び自動詞結果構文の語彙概念構造は,どのように表示されるべきか;(ii)この構文の概念構造から項構造及び統語構造への写像はどのように行われるのか;(iii)見せかけ目的語をとる自動詞結果構文は英語では可能である(e.g.Dora shouted herself hoarse.)が,他のヨーロッパ系の言語の多くでは可能ではない。この違いは何故か。いずれの点も,他の点に大きく絡む問題である。 (i)に関しては,非能格自動詞及び他動詞結果構文のいずれも,概念構造表示では,大きく,上位事象構造と下位事象構造とに分けられる。まず,英語の場合,結果構文の下位事象構造においては,着点(または結果状態)ばかりでなく,それへの経路の存在が必須であることを明らかにした。これは,先行研究に見られない知見である。また,働きかけを表す上位事象の表示は,Croft(1991)の‘causal chain'の考えを導入した分析を試みている。そして,上位事象と結果を表す下位事象との結びつきは,先行研究では,前者を‘Adjunct'とするもの,‘lexical subordination'や「語彙合成」などにより行なっている。本研究では,これらの手段によるものではなく,元来他動詞(の大半)及び非能格自動詞の基本的概念構造として両事象構造を結合したものがあると提案している。さらに,(iii)におけるような,諸言語間に見られる結果構文の現われ方の相違は,「語彙化」における違いに起因しているとの考察をもっている。 これらの考察のさらなる検証,統語構造への写像規則の明示化は,今後の研究の進展に委ねられることになる。
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