研究概要 |
本研究の目的は,これまで普遍的とされてきた欧米主導の言語運用理論に対して東南アジアの言語文化圏の観点から修正を加え,新たな「普遍的」言語運用モデル構築の為の理論的考察と方法論の提言にある。 本年度は,初年度に行ったパイロット調査結果をふまえ,個々の言語運用や言語形式に現われるミクロの言語現象を支えるマクロレベルの社会文化的価値観における東南アジアと欧米言語文化圏との相違点を多角的に探る方法論を見い出すべく,以下のような研究と調査を行った。 1.近年ポライトネス理論に対して出された中国語,日本語からの異議を検討し,間題の所在を確認した。 2.「詫び」という言語行為について異なる3種類の相手と複数種類の場面を設定した発話完成テストと,異なる2場面の「集合写真」の絵を提示し,どこに並ぶかの質問紙とインタヴュー調査を行った。 3.中国の『礼記』と『聖書』に見られる言語行動に関する規範の抽出を試みた。 パイロット調査の結果,日本話では,相手との関係によって言語形式の違いだけではなく,談話の運び方や「感謝」表現と連続関係をもつか否かにも違いがあること,自己の位置付けが個々の場における他者との関係から決定されることが認められた。『礼記』では,具体的な言語行動規範において,欧米のポライトネス理論では説明できない点が出てきた。 次年度は,日本,中国,米国で本調査を行い,『礼記』と『聖書』から取り出された項目をカテゴリー分けし,各言語文化圏内でミクロの言語内形式とマクロの世界観価値観との間に一貫性が見い出せることを明らかにする。それによって,欧米の社会文化的価値観世界観に支えられた言語理論を見直し,より「普遍的」な言語運用理論の構築を目指す必要性があることを学会や報告書において提言する。
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