研究代表者(井出)は、社会言語学・語用論、言語人類学、ポライトネス理論等を複合した観点から、1998-2000年度の研究期間に、人称代名詞の使用制限、文法体系に組み込まれた敬語、会話に頻繁に生起する終助詞・あいづち、といった東アジア言語に特徴的な文法現象が、東アジア社会の言語イデオロギーとどのように相関しているかを解明してきた。具体的に、井出は当該研究期間の3年間各年度に、日本女子大において文化価値(「和」の概念を中心に)と言語使用(特に終助詞・あいづち)の相関を様々な観点から分析・討論する国際ワークショップを主催するとともに、社会言語学会会長就任講演、国際語用論学会シンポジウム、Chulalongkorn大学、パリ科学研究大学での基調、招待講演等の機会を通じて、今回のプロジェクトの研究成果を公表してきた。さらに井出は、国語審議会委員会主査として、今回の理論的研究成果を現代社会における言語使用の観察と融合させた、「現代社会における敬意表現」という答申を取り纏めた。 研究分担者(堀江)は、認知・機能言語学および言語類型論の観点から、1998-2000年の研究期間に、東アジア言語、特に表面的に多くの構造的類似性を見せる日韓語の文法の背後には、形式と意味の対応関係に関して、日本語は韓国語より構造的曖昧性を許容しやすい傾向があることを明らかにした。本研究によって、両言語は、同じく膠着語という形態類型論的特徴を共有しながらも、文法化(grammaticalization)のパターンに明確な相違点があることが確認された。さらに堀江は、日韓語の文法構造の対照は、両言語社会のコミュニケーションスタイルの相違と相関している可能性を示唆した。今回の研究成果は、国際認知言語学会シンポジウム(スウェーデン)、国際韓国語学会(チェコ)、国際認知類型論学会(ベルギー)、日韓言語学会(米国)、概念構造・談話・言語学会(米国)等の国際学会で発表された。
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