研究概要 |
最終年度である平成12年度は,これまで取り扱うことのできなかった周辺的な現象に射程を広げ,平成10年度,11年度の研究と合わせて総合的なレキシコン理論の構築につながるように試みた。考察の対象も動詞と名詞のほか,形容詞も加えた。論文「創造性による語形成と特質構造」では右側主要部の規則から外れる日英語の語形成現象を取り上げ,言語の創造性によって特質構造を組み立てる特別の仕組みとして分析した。論文「心理述語における形態と意味のずれ」では,英語の心理形容詞および心理名詞が意味的,形態的に動詞と対応しないことから,従来のように動詞から形態的に派生するのではなく,形容詞化および名詞化の語形成操作が直接,語彙概念構造に適用することを論じた。論文「言語と認知がまじわるところ」では,位置と状態が語彙概念構造のレヴェルでは同じ公式として把握され,その結果として言語は物理的,心理的外界把握とは別の体系を作っていることを明らかにした。論文"Word Plus:The Intersection of Words and Phrases"では,通常の語および形態素とは別のカテゴリーとして「語^+」という特別の言語単位が存在することを日本語と英語の具体的事例から立証した。論文「非対格構造の他動詞-意味と統語のインターフェイス-」では,使役・起動が関わる這常の自他交替とは別に,「木から芽がふく/木が芽をふく」のような場所表現と噴出物によって表される自他交替が存在することを指摘し,非対格性が語彙概念構造の図式によって捉えられることを論証した。論文「語彙と文法」では項の受け継ぎを中心に語彙構造と統語構造の関係を明らかにした。論文「名詞のデキゴト性」では「〜を始める」という構文を中心に個物名詞が出来事名詞として解釈される場合があることを指摘した。
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