ピンダロスの合唱隊叙情詩は、近代人の想像するような「詩」ではなく、我々の時代の文芸に範を求めるなら、演劇台本に近いことを証明するのが、安西の仮説の根本である。本研究の目標は、従来から、研究者達を困惑させてきた、N.3.1-12等を、「詩人を装う合唱隊」という仮設(もちろん基本仮説の範囲内)を駆使して、基本仮説と矛盾しない形で解釈できることを示すことにあった。この目的は、北海道大学西洋古典研究会、および東京大学西洋古典学研究室において口頭発表された後、地中海学会誌「地中海学研究」(全国学会誌・審査付き)XXII、19-42に採用・掲載された「ピンダロス ネメア祝勝歌第3 1-12 : 詩人を装う祝勝歌の「私」」によって果たされた。これによって、祝勝歌に登場してくる語り手が、詩人(=ピンダロス)らしい振る舞いにおよぶたびに、祝勝歌の「私」は詩人ピンダロスであるとする謬見にもっともらしさが与えられるという事態は、これから先、少なくとも日本国内では避けられるようになると信じている。なお、欧米誌に投稿するというもひとつの本研究のもうひとつの目標は、ロンドン大学Carey教授にレビューを受け、投稿の際には協力して下さるという申し出も受けたが、まだ、実現には至っていない。本年度中には実現したいと考えている。
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