本研究は、江戸時代中期に倉敷の宝島寺を拠点として活躍した寂厳(1702-1771)の悉曇学上の業績を総合的に研究しようとするものである。研究計画は2ヵ年にわたり、初年度に当たる本年は、主として宝島寺に所蔵される悉曇学資料の調査を写本を中心として行った。特に、寂厳の悉曇学のなかで重要な位置を占める『梵字悉曇章稽古録』(刊本)及びそれに対する高野山の自称「幻耳不」の批判書『梵字悉曇章不稽古録』(寂厳書写・書込み本)、さらに寂厳の反批判の書である『反不稽古録』(仮称・稿本)の資料化を行った。具体的には、それらを写真撮影と、スキャナーを用いての電子画像化を行った。また、『反不稽古録』稿本については、その解読を行い、翻刻テクストを電子化テクストファイルとしてまとめた。これは、来年度の早い時期にハードコピーを作り、秋に予定している寂厳シンポジウムの資料とする予定である。 その他に宝島寺所蔵歴史資料目録(宝島寺、昭和62年)に記載される悉曇書目の原本との照合を一部終えることができた。上記の写真撮影、画像入力に調査のほとんどの時間を取られ、この方面では大きな進展はなかった。但し、研究協力者ともいうべき宝島寺住職の手によって資料整理は継続的に行われており、着実な進展を見せている。本研究においてはその成果を利用させていただいている。 以上が本年度の研究実績の概要である。内容に踏み込んだ分析は次年度の課題である。
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