三年間にわたる本研究においては、まずギリシア・ローマ文学作品において用いられる様々な叙述技法の通時的発展や特定の文芸様式(ジャンル)との結びつき等について基礎的調査を行った。その過程で、必要な文献資料の調査・収集のために国内研究旅行を実施した。この基礎的調査に基づいて、個々の作品を取り上げ、各作品の叙述が持つ技法上の特色の解明に立脚した作品論的研究を進めた。その中間的な成果はすでに、佐野好則「『オデュッセイア』における木馬の物語」および大芝芳弘「カトゥッルスの弁論批判-第44歌をめぐって-」として発表されたが、さらに本研究の最終的成果として作成されたのが、本報告書に収められた三編の論文である。大芝芳弘「カルウゥスとカトゥッルス(1)-カトゥッルス第14歌をめぐって-」は、カトゥッルスの文芸批評詩の叙述上の工夫として、文学的伝統と学識および機知と諧謔が果たす機能を論じている。また佐野好則「『オデュッセイア』第二十四巻(36-94行)におけるアキレウスの葬儀の叙述の特徴について」は、同じ題材を扱う他の作品の叙述との比較を通じて、『オデュッセイア』の叙述に特有の特色を考察したものである。佐野はさらに「ソローンのエレゲイア詩『ムーサたちへの祈り』(13W)におけるホメーロス的比喩の機能」において、ホメーロス叙事詩からの影響を顕著に示す比喩が、ソローンの詩の全体構成の中で担う役割を論証している。具体的な作品に則した以上の諸論考において、叙述技法の諸相を実証的に明らかにするとともに、それに基づいて各作品の従来の作品論研究に新たな視点から光を投ずることができた。この研究成果を足がかりに、さらに分析・検討を積み重ね、特に文芸様式と叙述技法との多様な関係に注目して作品論研究を継続発展させていくことが今後の課題であると考えている。
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