1.本研究は、経済紛争・経済犯罪の判例分析を通して、社会主義崩壊後の過渡期のロシアの経済・社会・法の構造を明らかにすることを目的としている。平成10年度は、仲裁裁判所(企業が当事者である経済紛争を管轄する)の判例(特に契約紛争)を研究対象とし、その結果を論文「現代ロシアの経済判例の研究」として発表した。 2.平成11年度は、前年の研究を引き継ぎ、現行憲法(1993年)下の普通裁判所の民事判例を研究対象とした。そのうち契約をめぐる紛争は52件ある。その分析の結果、ロシアの契約紛争の実状がかなり明らかになった。(1)社会主義時代との連続性がみられるのは、住宅紛争が圧倒的に多いこと(全体の約7割)、国有住宅の賃借権の「交換」契約などをめぐる社会主義型の紛争がかなり多いこと、住宅紛争に際して弱者保護の原則が適用されていることなどである。(2)過渡期段階を反映した紛争としては、住宅私有化をめぐるものがある。(3)市場経済体制への転換を物語るものとしては、契約自由の原則が確立され(公証手続、登録義務の縮小等)、以前はほとんどなかった住宅・車の売買をめぐる紛争が増えたこと、銀行預金の利子をめぐる紛争(社会主義時代は利子は原則的に禁止されていた) や、任意保険をめぐる紛争が増えた(車購入の手付金を払ったが、車が引き渡されなかった場合の保険など)ことなどが上げられる。 3.平成12年度は、経済犯罪に関する判例その他の情報を分析対象とする。そして既に研究済みの民事の経済紛争の研究と合わせて、現代ロシアの経済をめぐる紛争・犯罪を総合的に考察し、『ポスト社会主義社会における契約自由の原則の確立』を著したい。
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