本研究の目的は、論理実証主義と法学方法論との関係を明らかにすることにあるが、本年度は、ウィーン学団と交流のあったケルゼンの純粋法学の方法と論理実証主義の科学方法論との比較を中心に研究を行った。それによってえられた知見の主なものは、以下のとおりである。 1 科学における論理ないし論理学の地位を非常に高く評価する点では、論理実証主義とケルゼンは一致する。 2 にもかかわらず現代の記号論理学や様相論理学に関する知識はケルゼンにはない。 3 その結果ケルゼンは、法規範における要件と効果の関係を、命題論理における実質含意の関係と誤解している。 4 同様にケルゼンは、因果法則における原因と結果の関係も、命題論理における実質含意の関係と誤解している。論理的に言えば、法規範における要件と効果の関係も、自然法則における原因と結果の関係も、十分条件の関係でもなければ、必要条件の関係でもない。 5 ケルゼンの純粋法学のもう一つの難点は、純粋な規範的関係のなかに事実的要素が混入しているため、その純粋性が結果的に保てなくなっている点にある。ケルゼンの根本規範に関する説明は、妥当性は実効性に還元できないという彼の主張を結果的に裏切ることになっている。
|