論理実証主義(ウィーン学団)と法学方法論との関係を明らかにすることを目的とする本研究によって、以下のことが明らかになった。 1 いわゆる言語論的転回に関する通説的見解は、それを3つの要素(事実の世界と意志の世界の分離、世界を写しとる透明な媒体としての言語、事実と表象との一致をめざす・普遍的真理への漸進的進歩観)で定義した上で、論理実証主義が言語論的転回前の言語観に立っていると見るが、そのような見方は上の3点いずれに関しても誤りである。 2 通説的見解に反し、論理実証主義は、基礎主義的認識論を早くから放棄し、規約主義的言語論・認識論と斉合説的真理観に立っている。 3 通説的見解は、論理実証主義に構文論的・意味論的観点しかなかったと見るが、それは誤りであって、物理主義的立場をとる論理実証主義者(ノイラートやカルナップ)は当初から、語用論を構文論・意味論的分析の前提として考慮していた。 4 日常言語学派は、論理実証主義の形式主義・論理主義への反発と見ることができるが、それは、言語論的転回に貢献したというより、語用論的転回の一派にすぎない。 5 純粋法学のケルゼンは、科学における論理の地位を高く評価する点では、論理実証主義者と同じであるが、論理学の知識が十分でなかったため、法規範における要件効果関係を命題論理の実質含意の関係と誤解するなど、いくつかの論理的間違いをしている。
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