本年度は、1850年代から1920年代に至る時期のイギリス・ドイツ・アメリカなどにおいて社会史・文化史・精神史上での構造転換の軌跡を析出する作業を中心的に行った。ヴィクトリアニズムの伝統からの脱却が1920年代に顕著になったことやその態様は報告者の先の研究で明らかにしたが、本研究ではそれに先立つ「脱却」への動きとして、1874年の深刻な経済危機体験が及ぼした影響があることに注目した。しかし同時に、アメリカではこの時期以降にヴィクトリアニズムが強まるのでもある。こうした点を深めるために、ホブズボームの『帝国の時代』などを参考にしながら、社会史・文化史・精神史に関わる個別テーマ(たとえば決闘の歴史、専門職の歴史、サロンの歴史、女性史など)を押さえた。 3カ年に及ぶ本研究の基軸は、こうした環境変化が法学の分野にどのような作用を及ぼしたかを明らかにすることにあるので、次年度以降はこの点を深めることが課題になる。ところで、法学の分野で「1874年」をもっとも深刻に受け止めたのはイエーリングであるが、彼以外にはどういう人物がいてどういう受け止め方をしたか、それらの相互関係はどのようなものであったかを明らかにすべく、近代法学(ギールケ、メンガー等をも含めて)の歴史分析をめることが、これからの課題にな。
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