本年度は、本研究に関する成果をまとめる作業が中心であった。その結果、具体的な成果として次の5論文を得た。すなわち、(1)抵抗権についての考察、(2)擬制論、(3)政治・法・道徳の原理比較による考察、(4)法解釈をめぐる規範主義と決断主義、(5)法解釈方法論の整理、である。これらの諸論点は、対象とするヨーロッパの近代法学が、それ以前から問題を引き継ぎつつ主要な関心事として追求した事柄である。本研究の狙いは、近代法学を1850年代から1930年代までのヨーロッパ文化史の中に如何に位置づけるかという大テーマにあるので、成果の発表は、上述の諸論文の様な形で、近代法学の主要問題を一つ一つ思想史的・文化史的に押さえつつ、その連関において全体のテーマを照射していこうと思う。ここでは字数の関係で、(1)(2)(3)について説明しておく。 (1)抵抗権についての考察 本論文では、抵抗権に関する近世ヨーロッパの自然法思想以来今日に至る思想史を整理した上で、(イ)正常に機能している立憲体制下での、憲法原理を守るための抵抗と自然法的価値を護るための抵抗、(ロ)圧制下での自然法的価値をめぐる抵抗と圧制崩壊後のその評価、にケースを分けつつ、戦後ドイツの裁判をも素材にしながら考察した。本論文は、4月に印刷に付し、6月のオランダでの学会で発表する予定である。 (2)擬制論 本論文では、ドイツ近代法学を中心とした、擬制の評価をめぐる法理論史を整理した上で、文化史全体において擬制がいかなる位置にあるかを考察し、法学におけるこれまでの擬制論を独自の観点から再考した。 (3)政治・法・道徳の原理比較による考察 「政治」に関するカール・シュミットの問題提起を中心に置きながら、その観点から政治・法・道徳の原理的考察を行い カント以来のドイツ法思想の流れを総括した。
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