今年度は、昨年度と今年度に収集した史料をもとに、近世日本の「訴訟」について総合的に検討した。そこではまず第一に、出入筋の「訴訟」、吟味筋の「訴訟」、願筋の「訴訟」という「訴訟」の全体像を明らかにするとともに、従来全く手をつけられていなかった願筋の「訴訟」手続の概要を明らかにすることができた。即ち、訴状(願書)の提出から請証文(裁定を受け入れる旨の誓約書〉までの一連の手続の概要を解明するなかで訴願手続の特徴を明らかにするとともに他の「訴訟」手続との異同についても一定部分明らかにすることができた。第二に、「訴訟」制度の問題点、限界についても明らかにすることができた。そこでは合法的な「訴訟」制度が人々の「訴訟」を受け入れる制度としては訴訟抑圧、不公正な審理等、多くの問題点をはらみ、それゆえ「訴訟」の処理に不満を感じた人々は非合法の「訴訟」(駕籠訴、駆込訴等)に走ったこと、さらには、「訴訟」制度で十分処理しきれない問題が「訴訟」という形で裁判役所に持ち込まれ、それ故十分な対応ができなかったことを明らかにした。 以上、今年度の作業で明らかに出来たことろである。願筋の「訴訟」(訴願)の手続の概要を明らかにできたことは大きな収穫であったが、その概要の解明にとどまったため、詳細な検討が今後の課題として残された。願筋の「訴訟」(訴願)の本格的研究を行い、いかに多くの訴願が行政当局によせられていたのか、そして、各種の行政当局への訴願がどのように処理されていたのかを解明することにより、近代以降に形成される訴願法、行政訴訟法の歴史的前提を明らかにしていきたい、と思っている。
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