本研究の基本的なスタンスは、無形資産の価値や所在国の確定が不可能であるから、これを回避しながら、無形資産を巡る有効な国際課税の制度や枠組みを考えることにある。無形資産に係る費用分担取決めは、そうした制度の一つと見ることができる。しかし、まず、新規参加や脱退の場合や、一定の段階まで開発された無形資産が持ち込まれる場合には、無形資産の評価が必要になる。費用分担取決めの納税者に対するメリットとして、低税率国の子会社に研究開発機能を持たせ、それに見合うより多くの所得を配分できる可能性が指摘されている。しかしこれとは逆に、研究開発費に対する租税優遇を持つ高税率国に研究開発部門を置く誘因も存在する。いずれにしても、無形資産評価の回避は、こうした税の持つ効果をよりストレートに出す可能性が高い。第三に、費用分担取決めの成果たる無形資産からの収益を測定し、これを各参加者に再配分する形で移転価格税制が執行される可能性がある。無形資産に係る収益の算定やその再配分は、無形資産自体の評価と同程度に困難であると思われる。ひるがえって、無形資産の生成に対する通常の(費用分担取決めが選択されない)取扱では、単独の開発者を特定し、これを所有者として、無形資産の共有を原則として認めない方法が採られている。したがって、この処理では、グループ内での無形資産に係る取引は、ロイヤリティ等の対価として扱われる。しかし、これは硬直的であり、また実質ともかけ離れている面があるので、費用分担取決めが選択されない場合の無形資産に対する移転価格税制の適用においても、一定の費用分担取決めの手法を適用することが考えられる。
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