本年度は、費用分担取決めが従来の知的財産権に対する国際課税に与える波及効果を検討した。また、国際課税における費用分担取決めが、国際課税の枠組み自体をどのように変えているかを、たとえば、グローバル・トレーディングに対する移転価格税制の適用といった分野をも視野に入れながら、検討した。 同時に、本年度に得られた新たな知見として、アメリカにおける法人タックス・シェルターが、知的財産権の形成に大きな影響を与えたことが挙げられる。アメリカにおけるタックス・シェルターは、1986年税制改革に至るまでは、個人に対するものが主に問題とされ、そのほとんどは立法的な対処(否認)によって解決を見た。しかし近年は、法人によるタックス・シェルターが大きな問題とされ、対策立法や規則制定が行われている。こうした法人タックス・シェルターの手段としては、いうまでもなく金融派生商品取引が用いられてきたが、さらにその背後には、知的財産権の形成に移転価格税制する様々な租税優遇措置の存在がある。そのような租税優遇利益をいかに有効に利用するか、さらには、本来優遇措置が対象としていない主体に対して移転するかを巡って、タックス・シェルター、あるいは、租税回避が行われてきたのである。本年は、そうしたタックス・シェルターの事案を、アメリカの判例を対象として集積するとともに、その対処(否認)のあり方を検討し、アメリカにおける実質主義、事業目的テスト、および、虚偽取引の法理の内容を、ある程度明らかにすることができた。
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