現代の科学技術の発展による環境・生命・健康への重大な危険や、臓器移植や遺伝子治療による人間の生命倫理の問題について、人権理論の根本的な再検討を踏まえつつ、四人の尊厳の原理に照らして検討することが本研究の目的である。 この目的に沿って、本年度はとくに生命倫理に関する問題点の研究に従事した。1998年4月3〜5日に早稲田大学で実施された日独共同シンポジウム(日本側はドイツ憲法判例研究会主催)で、「科学技術の発展と個人の尊厳」というテーマで報告し、科学技術の進展とくに医療技術の進展が生命倫理ないし個人の尊厳に与える影響について、(1)科学技術は人間の尊厳を阻害するものであってはならないこと、(2)しかし、個人の尊厳の原理はなお意味が抽象的であり、しかも、個人の尊厳による制約は比較衡量を許さない絶対的制限となるので、広く解釈することは妥当ではないこと、したがって、(3)科学技術の研究の自由に対する個人の尊厳の制約はその核心的なものにとどまり、科学技術の制約原理としての生命倫理の内容をなお吟味すべきこと、を主張した。この報告は現在シンポジウムの記録の刊行のために、印刷中である。 その後、クローン規制に関する日本・ドイツ・イギリス・アメリカの実情について調査した。それらについては、1999年度に論文にまとめて発表することにしている。、また、本研究に関連する研究として、個人の尊厳ないし人権保障に対する裁判的保障、国際人権保障のあり方といったテーマに研究を広げ、いくつかの報告と論文執筆に従事した。
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