現代の科学技術の発展による環境・生命・健康への被害への重大な危機や、遺伝子治療・ヒトクローン研究などによる人間の生命倫理の問題について、人権理論の根本的な再検討を踏まえつつ、その規制の可能性を個人の尊厳の原理に照らして検討した。 平成11年度は、その成果として、「環境・科学技術・人間」をテーマとする日独共同研究(早稲田大学、1998.4)をまとめた『環境・科学技術・人間』を共編として刊行したほか、同書のなかで「科学技術の発展と人間の尊厳」として、自己の研究成果をまとめた。 そこでは、ヒトクローン研究に対する危惧のために世界的に規制が進むなかで、その規制の根拠として「人間の尊厳」を挙げることに問題があることを指摘し、他方で、ヒトクローン研究であっても純粋に科学的見地からなされる場合には、強い規制は不適当であることを説いた。 さらに、1999年9月に高麗大学(ソウル)で開催された「医療技術の発達と医療法学の対応」をテーマとする日韓法学会において、「高度医療技術と法」とするテーマで報告した。その後、2000年1月からアメリカで研究を行い、科学技術に対する規制のゆるやかなアメリカのなかでのヒトクローン研究規制の動向について、研究に従事している。 本年度は、本科研費にかかる研究を一層深め、主要な問題を検討した論文をまとめることができたが、さらにその派生物として、現在大きな政治的課題となっている司法改革・憲法裁判に関してもいくつかの論稿を執筆することができ、きわめて充実した研究の年となった。
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