研究概要 |
本研究は,国際司法裁判所の判決または勧告的意見に付される裁判官の少数意見が当該判決の形成にどのような影響を与えるかを,具体的な裁判例に即して実証的に検討することを目的とするものであって,本年度は,まず次の二点の研究を行った。 第一は,国際司法裁判所において少数意見制かつ採用された経緯,すなわち,それはどのような意図と目的によって導入されたかである。これを考察するためには,戦前の常設国際司法裁判所における本制度の採用経過をみなければならない(国際司法裁判所の2の旧裁判所の制度を継承した)。調査の結果,旧裁判所の創設時(1920年)には,少数意見制の導入には根強い反対論があったことが判明した。その主たる理由は,多数意見による判決と異なる意見の表明を認めることは,結局は判決批判を許すことになり,ひいては判決の権威を侵害することになる,ということである。この反対論は,とくに大陸法系の法律家から出された(英来法系の論者はむしり本制度の採用に好意的であった)。この点は,結局,少数意見制をどのように評価するかにかかることになる。これが次の第二論点である。 第二は,少数意見制の意義と問題点である。調査の結果、まず,意義については,大きく次の3点にまとめることができた。1(少数意見の国際法の形成・発展機能,(2)判決内容の明確化機能,(3)判決内容の質的向上機能,である。これらは,国際司法裁判所の実際の裁判例に照して確認することができた。他方,少数意見には問題点があることも確かであり,この点は,現在,とくに国際司法裁判所についてみらえる問題点に絞って,具体的な事例を検討しながら調査を進めている段階である。
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