研究概要 |
平成10年度4月に東北大学に移籍してから、書庫の家族法・親子法関係の書籍を充実するために科研費を活用した。研究としては、従来の過去の親子関係法の構築と分析にもあたったが、新しい人工生殖の問題にもアプローチして2,3の論考が校正段階である。 母胎の体外における授精が可能になってから、生殖への人為的介入は一挙にその多様性を広げ、現在はクローンの可能性が現実化している。しかし日本ではこの間、生殖医療について十分な討議が行われることなくすぎ、40年以上のAID実施の歴史もむしろその討議を妨げる方向に作用してきた。紹介され始めた欧米社会の議論を日本に適用することには、アンチモダンが基層をなす日本社会の土壌に、プロトモダンの段階を飛び越して、ポストモダン的現象である欧米の代理母の議論が接ぎ木されることの困難さがある。 日本におけるプロトモダンの段階の未消化は、民法の親子法の規定をめぐる従来の血縁主義的解釈にも現れている。この血縁上の親子を限りなく法律上の親子に合致させる解釈が従来は優勢で、民法の規定は判例と学説の解釈によって空洞化の一途をたどってきた。もっともこの空洞化傾向に歯止めをかけた最近の最高裁平成10年8月31日判決判例時報1655号112頁により、人工授精子の身分が守られる蓋然性は高まったものと思われる。この最高裁判例は、嫡出推定制度に関する筆者の従来の主張を大幅に取り入れたものと評価できる。人工生殖に視野を広げた立法論を構築するためにも、日本の家族法にとってまず必要なことは、むしろ血縁主義に流れていた従来の解釈論及び実務を反省することである。
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