研究概要 |
本研究の目的は,日本の実親子法を構築することであった。実親子法関係訴訟について、日本法は顕著な特徴を持つ。つまりわが国では、法的親子関係が血縁上の親子関係と異なっていること自体が問題であると考えられ、それを一致させる解釈によって、嫡出推定などの法的親子関係を定める民法の規定が空洞化される傾向が一般的であった。しかしこの傾向は、諸外国の実親子法とは異なるものであり、子の民事身分を危うくする危険をもつとともに、今後の生殖医療の進展にも対応できない。法律上の親子関係は、血縁上の親子関係を基礎にしつつも、同時に、子の養育の責任を負う親を早期に子に保障するとともに子の民事身分を必要な場合に守るという要請に応えた、正義を体現するものでなくてはならない。それらを実現できるように、嫡出推定・認知無効・わらの上からの養子などの従来の解釈問題について、戸籍の諸届と民法の規範を整合した解釈を提起した。また科学の進展によって、自然状態では不可能な受精が可能になったため、出産した母が遺伝上の母ではない事態が生じうる。母胎の体外における授精が可能になってから、生殖への人為的介入は一挙にその多様性を広げ、現在はクローンの可能性が現実化している。しかし日本ではこの間、生殖医療について十分な討議が行われることなくすぎ、40年以上のAID実施の歴史もむしろその討議を妨げる方向に作用してきた。紹介され始めた欧米社会の議論を日本に適用することには、アンチモダンが基層をなす日本社会の土壌に、プロトモダンの段階を飛び越して、ポストモダン的現象である欧米の代理母の議論が接ぎ木されることの困難さがある。この人工生殖による新たな問題にも対処した。
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