本研究においては、破綻した夫婦の間に未成熟子がいる場合にその子をどちらが育てるかをめぐって生じる紛争-そのなかでも特に、一方または双方の親が実力を用いて子を連れ去るというタイプの争いに注意を払う-を解決ないし予防するための法制度について検討をおこなった。 子の奪い合い紛争は、わが国においてのみならず、世界の各国においても家族法領域のきわめて重要な問題となってきている。また、国際化にともない、子の奪い合いが国境を越えて2か国以上にまたがる紛争として発生することも稀ではなくなっている。本研究においては、このような紛争を解決ないし予防するための法制度につき、日本における状況と外国における状況(国際的な状況)を参照しつつ検討をした。日本については平成5年以降の一連の最高裁判例が、外国については「子の国際的奪取の民事面に関するハーグ条約」が、それぞれ重要な素材となった。とりわけハーグ条約に関しては、ハーグ国際私法会議事務局およびこの条約実施に当たっている各国の中央当局から提供される資料が貴重なデータとなった。 以上の検討を通じて、子の奪い合い紛争に関してハーグ条約の構想する紛争処理方法、すなわち、親の一方が実力行使によって子を移動(または留置)した場合に、親権・監護権等の実体的な権利関係とは切り離して、そのような行為を非難に値するものとし原状に復さしめるという方法が、有効に機能することが多いことが明らかになった。他方、そのような処理に伴う若干の問題点も浮き彫りにされた。これらの点についての実務的・理論的観点からの検討結果は、今後、わが国が上記ハーグ条約への加盟を考慮したり、国内法制を整備したりするにあたってどのような点に留意すべきかにつき、重要な示唆を与えるものであろう。
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