民法の詐欺・錯誤に関する規律は、勧誘規制という側面を有している。しかし、事業者の消費者に対する勧誘においては、事業者と消費者との間の情報の収集・分析能力の格差、事業者のよく準備された組織的・効果的な勧誘、顧客が事業者の勧誘によって影響を受けやすいこと、軽率な判断や、冷静さを欠いた判断をする傾向があることを指摘することができ、それらの事情を考慮すると、民法の詐欺・錯誤に関する規律からは、十分に適切な解決を導くことができない場合がある。 他方、銀行・保険会社・証券会社などの金融機関に対する監督法上の規制には、事業者に対して勧誘段階の規制を行なうものが、少なからずある。しかし、それらの規制に違反した場合の効果は、行政上の措置であり、また、刑事罰であって、民事法上の効果は、明文で定められてはいない。 最近の変額保険の勧誘にもとづく保険会社の損害賠償責任が問題となった最高裁判決の分析から、以下のような内容の法的な準則を導き出すことができる。すなわち、生命保険募集人は、顧客を取引に勧誘するにあたって、変額保険の金融商品としての特徴について顧客が理解することが可能となるような説明を、顧客に対して行なう義務を負い、その義務違反があり、しかも、顧客の認識・理解・判断が、不正確であり不十分である場合には、その取引により顧客に生じた経済的損失について、不法行為にもとづく損害賠償責任を負う。
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