金融サービス取引において共通の問題となるのは、契約締結およびそのための準備・交渉過程の規律である。とりわけ、投資・運用を内容とする金融商品の販売が、契約締結、その準備・交渉過程の規律の観点から重要である。なぜならば、投資・運用を内容とする金融商品とは、キャッシュフローを変更し、リスクを移転するという経済的な実質を有し、そのため、取引の客体についての可視性がなく、取引の容体が本来的に不確実なものだからである。したがって、販売・勧誘の局面での、専門家である金融機関の態様に対する規律の重要な意味を有し、また、実際の社会においても、金融商品の販売勧誘におけるルールのあり方が、大きな意義を有するに至っている。 このような問題について、我が国では、多様な金融商品に横断的であり、しかも、民事法的に規律しようとする新しいタイプの立法が行なわれ、金融商品の販売等に関する法律が、2000年成立し、2001年4月からの施行を迎えている。 本研究では、この問題をめぐる従来の考え方と、立法の経緯を検討したうえで、(1)金融商品の販売等に関する法律が金融商品販売業者等に課した重要事項の説明義務について、文書によるが、口頭によるか、あるいは、ATMやパソコンの画面に表示することによるかを問わず、実質的に、顧客が認識可能な状態を、金融商品販売業者が、作出したかどうかを基準に判断すべきであること、(2)金融商品販売業者等は、説明義務が課される場合、説明すべきである重要事項を自らが知らなかったとしても、説明をしなかったのであれば、説明義務違反と認めるべきこと、(3)金融商品の販売等に関する法律は、元本欠損の損害が生じていること、および、説明義務違反と元本欠損の損害が生じていることとの間の因果関係があることの2点を、推定しているが、顧客が、重要事項を知っていれば、たとえ、金融商品販売業者等に説明義務違反があっても、因果関係は存在しないと判断すべきであり、したがって、推定は覆るべきであることを、主張した。
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