本研究は、日本の賠償責任保険の法律上の諸問題について、アメリカ合衆国等の諸外国の賠償責任保険の判例・学説を比較検討したうえで、日本の賠償責任保険の基礎理論を体系化するのが目的である。 平成12年度は、自動車保険における賠償責任保険の諸問題について研究し、現代における自動車保険の役割とその法律上の問題点についても考察し検討した。とくに、自動車保険の対人賠償責任保険における故意免責についての二つの最高裁判決の対立点をはじめとして、賠償責任保険一般の問題にかかわる重要な論点である、故意免責条項を中心として検討を行った。それによると、故意免責の趣旨は、そのような行為に対して保険金を支払うことが公序に反するという理由から免責とされるのであり、偶然性の欠如からではないという結論となった。また、アメリカ合衆国の賠償責任保険で問題となっている、親族間免責、従業員免責、アスベスト免責などの有効性について、裁判例を中心として賠償責任保険における免責条項の意義とその問題点を分類整理したうえで体系化し論点を整理しその相互の関連性を理論的に結論付ける作業を現在行っている途中である。これらの問題点の整理は、今後日本の賠償責任保険の免責条項についてその理論的基礎を解明するうえで必ず役に立つものであるから、次年度も引き続いて行う予定である。さらに、個々の賠償責任保険における問題点として、環境賠償責任保険、会社役員賠償責任保険、生産物賠償責任保険などの比較的新しくて社会的にも問題となった賠償責任保険について、それぞれの賠償責任保険における特有の問題点についても検討した。今年度はとくに税理士賠償責任保険の「本来支払うべき税額」の解釈が問題となった裁判例が続出し、なお下級審ながら見解が分かれており、現在理論的な分析を行っている最中である。
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