1 会社の意思決定の適切性を確保し、健全な企業運営を維持するためには、効果的なコーポレート・ガバナンスの実現に向けて代表訴訟制度の果たす役割を再認識する必要がある。本研究は、そうした視点から、現行制度が抱えている問題について検証を試みた。まず、従来ほとんど論じられてこなかった使用人兼務取締役・平取締役の責任については、取締役の会社への寄与度や権限、職務内容等に基づいて、その責任範囲の段階的限定を行うべきとの結論に達した。 2 実務上最も大きな関心を集めている会社の被告取締役側への訴訟参加の可否については、判例・学説および関係者からのヒヤリング等を詳細に検討した結果、これを否定すべきであるとの結論を得たが、平成13年に議員立法という形で、これを肯定する法改正がなされたため、解釈による是正の道を探る方向へとの転換を余儀なくされた。内部統治システムが必ずしも十分とは言い難いわが国の現状にあって、株主や会社の正当な利益を損なうことになるような補助参加が安易になされないようにするためにはどうしたらよいのか、解釈による新たな枠組み作りが今後の課題として残された。 3 フランス、ドイツ等EU諸国の代表訴訟制度についても概観したが、その結果、ドイツには、代表訴訟制度自体が存在せず、またそのニーズも少ないことが明らかになった。また、フランスでは、会社訴権を株主が個人的に行使するという独特の制度を採用しているが、この制度は、訴訟構造上、わが国の株主代表訴訟制度と共通する点が多く、わが国の規制を考える上で極めて有用であるということが検証された。 4 平成17年には会社法の現代化に基づく改正が再度予定されていることから、以上の研究を踏まえた上で、会社および株主の利益となるような実効性ある制度の運用を目的とした解釈論を展開するつもりである。
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