民法改正の力学関係は、(1)「家」改廃の契機はGHQ民政局が与えた。民政局は、「家」廃止を希望したが、違憲でない形式的存置は認めるべく、日本側に一任する方針を固た。これに対し日本側の、(2)起草委員は、「家」類似要素の存置を(3)の保守派と妥協した改正法を妥当な内容と考えた。(3)保守派は、GHQの廃止方針を一時期信じ、「家」類似要素の存置で満足せざるをえなかった。(4)革新派は「家」の全廃の貫徹を要求した。(2)(3)(4)とも(1)の「家」廃止の希望を感知しつつも、「家」廃止を自主的に決定した。国会では、「家」廃止の改正案に対し、戸主権はともかく家督相続の廃止には反対論が強かったものの、結局、改正法案を無修正で成立させたのである。以上の力学関係の全体像を、関係者の誰も把握していなかった。以上の点が「家」改廃方針の決定に影響を与えたのである。即ち、民法上の「家」の廃止は、旧来いわれていたような<起草委員の独自の発案が貫徹された>あるいは<家廃止の徹底を民政局が独自の方針として強く要求した>といった単純な過程をたどったのではなかったのである。
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