研究概要 |
この研究は,契約法の様々なレベルにおける国際的平準化の動向につき,その内容を整理分析し,それによってわが国の今後の契約法のあり方を検討する上での手がかりを得ることを目的とするものであった。 この目的に向けて,我々は,一方で,一般契約法の国際的平準化をなすウィーン売買条約(CISG)とヨーロッパ契約法原理につき,その内容の検討を行うと共に,他方で,消費者契約法の国際的平準化をなすEU消費者保護指令とその加盟各国による国内法化について検討を行ってきた。この検討により,一般契約法の中でも特に債務不履行・給付障害法に関しては,ウィーン売買条約(およびその全身であるハーグ条約)が,義務違反を中心概念とする統一的な法ルールを採用しており,その基本的考え方は,ヨーロッパ契約法原理,さらにはヨーロッパ諸国の国内法にも影響を及ぼしていることが確認された。特に,その影響は,ドイツの「債務法の現代化に関する法律」(既に本研究の期間中にその草案は公表されていた)によって2001年11月に実現された,ドイツ民法典の大改正の中に顕著に見られるのであり,従来日本の民法理論に大きな影響を及ぼしてきた伝統的な契約責任論の重要な部分が,これによって立法上否定されるに至ったことも確認された。 他方,消費者契約法については,この問のEU指令の蓄積により,多様な契約類型において,ヨーロッパにほぼ共通の法的基礎ができあがっていることが確認された。しかし,近年においては,そもそも一般契約法と消費者契約法の相互の関係にも,変化が見られることが確認された。すなわち,1992年に施行された改正オランダ民法典は,消費者契約に関する私法ルールを,民法典自体の中に取り込んだ点においても画期的であったが,先述の,2001年におけるドイツ民法典大改正においても,従来民法典の外に置かれていた消費者契約に関する様々な法準則が,民法典の中に取り込まれるに至ったのであり,これは,民法における消費者契約の位置づけ自体の変化を意味するものであることが確認されたのである。
|