1.食料・農業・農村基本法は多様な政策課題を広く掲げるが、多分に総花的で、価格政策の市場化等を別として、明確な政策体系を打ち出したものとは言い難い。(2)例えば、農業の多面的機能の重視と具体的施策との関連づけの弱さ、構造政策の概念の希薄化、担い手の捉え方の多様化・曖昧化、望ましい農業構造の確立と農村振興との関係の不明確さなどの問題がある。(3)後にみるフランスの新「基本法」と比べると、弱点が目立つ。 2.同法に基づく基本計画や具体化された制度的措置をみても、相互の整合性が十分確保されていない点が多い。例えば、(1)食料自給率の向上と必要な農地の確保という目標と、転用許可の分権化や緩和の併進(農地法改正)、(2)家族経営の活性化論と、農業者年金制度の大幅見直し・切り下げ(法案が審議中)や、株式会社形態を含めた法人化促進措置(農地法改正)との共存、(3)多面的機能を理由とする中山間地域等直接支払制度も、EUの20年前の制度に近いもので、経営の存続確保とは結びついていない、など。総じて、(4)経済効率性の要請と多面的機能維持の要請との調整如何の問題は、なお未解決である。 3.それに対し、(1)EUは、支持価格の抑制を行う反面で、西欧型の農業と農村社会の維持を目指す農村開発政策を共通農業政策の第2の柱として確立し、(2)フランスの新「基本法」は、EU財政を活用しつつ、多面的機能の発揮に対する「報酬」を個別農業経営に直接供与する新しい仕組み=「経営国土契約」を一般的制度として創出した。(3)構造政策の概念も維持されるが、その目標は、もはや経済効率性だけではなく、すべての地域でのより多数の経営の存続、そのための青年農業者の自立、公的援助のより衡平な分配、農業者の社会的保護の強化などとなる。成果報告書にも記す如く、そこから日本の農政が学ぶべきことは少なくないと考える。
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