1 アンケート調査の結果、中小企業においては労働法に関する知識が乏しく、とりわけ、集団的労働法に関する知識が欠如していることが明らかとなった。このことが、中小企業において集団的労使関係が良く機能していないことの主たる原因であるとは断定できないが、少なからざる影響を与えているように思われる。 2 中小企業において労働法の知識が十分に共有されていない点は、法化の進展しているオーストリアにおいても同様であることが明らかとなった。しかし、オーストリアでは企業横断的に集団的労使関係が構築されているために、中小企業の労働者が大企業の労働者に比して特段に劣悪な労働条件下におかれているわけではない。この点が、わが国との決定的な相違点である。 3 わが国においては、産業促進的な観点から中小企業対策がとられてきた。従来は、大規模化による競争力確保という観点からの施策が中心であったが、近年は、小規模のメリットを活かした新産業の育成に力点が移っている。しかし、企業が結局は労働者によって支えられることを考えると、現状のような労働条件の企業規模間格差を放置していては、中小企業に人材が集まらないことは明らかである。 4 集団的労使関係が機能していないことから、わが国の労働法は、労働者保護法の強化を通じて、労働条件の向上を図ってきた。とくに、相対的に劣悪な労働条件下にある中小企業の労働者にとっては、近時における労働基準法改正の意義は大きく、今後も、集団的労使関係が機能しない以上、こうした方向は基本的に支持されるべきである。
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