研究概要 |
今年度の研究の中心は,大きく分けて三つあった。 第一に,個人情報保護に関する外国の法制度の把握を試みた。とくにILOの定める基準, EU指令,イタリアで最近制定された法律の内容の把握を中心に行った。これらは,次年度に行う予定の国内法における解釈論・立法論をめぐる検討の前提作業であり,現段階では,企業内での個人情報管理について,とくに労働者側の主体的な関与を確保するための労働組合の役割が重要な意味をもつということが明らかとなった。 第二に,個人情報保護は,プライバシー保護という面とも関係するので,この面での議論の進んでいるアメリカ法の研究を行った。アメリカでは,被用者の利益と被用者・求職者のプライバシーの利益をいかに調整すべきかという議論が高まっており,多数の判例がある。その判例の分析から明らかとなったことは,労働者は職場の中でもプライバシーの保護を受けるが,様々な形で使用者の利益との調整がはかられているということである。 第三に,日本法において裁判例がこの問題にどのように取り組んできているかの検討も試みた。検討の結果として,企業における個人情報の保護が正面から問題となった例は少ないが,労働者の職場規律維持義務の範囲をめぐるケースやセクシュアル・ハラスメントをめぐるケースなどの分析をとおして,企業内において個人情報やプライバシーの問題が潜在的には多数あることがうかがいしれた。そして,ここから,このような潜在的な問題に対して,適切な法理論的受け皿を与えることができれば,より適切な救済を与えることができるのではないかという仮説を得た。
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