研究概要 |
平成10年度は,第一に,個人情報保護に関する外国の法制度の把握を試みた。とくにILOの定める基準,EU指令,イタリアで最近制定された法律の内容の把握,労働者の個人情報保護に関して精緻な理論が展開されているドイツ法の文献の翻訳を試みた。第二に,日本法において裁判例がこの問題にどのように取り組んできているかの検討も試みた。 平成11年度は,第一に,労働者の個人情報の保護に関して現行法上いかなる法的保護が可能かを民法,労働法それぞれの分野に照らして検討を試みた。さらに,前年度に引き続き,ILOの定める行動準則,EU指令,ドイツ,フランス,イタリアの各国における法制度の内容,さらにアメリカ法の動向について検討を行ってきた。とりわけ,重点を置いたのは,理論的に興味深いドイツと最新の法律をもつイタリアの法制度の研究である。これらの研究を通して,いかなる個人情報が法的な保護の対象となり,そのために,どのような法的仕組みが講じられているかという点を中心に分析を行ってきた。 以上の検討・分析結果から,日本法においても,保護される個人データの範囲(特に,センシティブ・データの範囲)を明確に定義したうえで,使用者がこれらの個人情報の処理(収集,利用,開示など)を行う際には,処理の内容に応じて労働者の同意や客観的な理由の存在を要件とすべきという結論を得た。また労働者代表の関与は重要な意味をもつが,日本の現行法の体制を前提とすれば課題もあるという結論も得た。さらに,使用者の違反行為に対しては,行為の事前抑止のための刑事制裁を定めたり,労働者側からの差止請求などを行いやすくするための措置を講じることが必要であるという結論を得た。
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