本年度については、フランスにおける19世紀後半から20世紀初頭の労働契約法理の形成過程についての資料収集が、主要な研究課題であった。 すなわち、フランス労働法典の制定以前の立法においては、民法典における雇用(louage de service)に関する規定はわずか2カ条しか存在しなかった。これを補うべく、地方の労働慣習や判例を通じて、労働契約に関する法理が生起したものであると推測されるが、(1)これらがどのような内容で、どのような意味で当事者の行為規範となっていたが、(2)どのような経緯により、20世紀初頭の労働契約立法に結実していったか。これらをできる限り詳細に検証すべく、資料収集を行うのが、初年度の課題であった。 これらの調査は、主として当時の判例、学術書及び労働実務の文献、及び立法資料などによることになる。このうち、判例及び法令及び基本的な文献資料等については、わが国の大学図書館等に所蔵する判例集・法令集、図書等でほぼ捕捉できることが判明した。ただ、わが国で戦前に収蔵された資料については、大学や官公庁図書館・資料室においてデータベース化されていないことが多く、古い蔵書目録を通じてしか把握できないことがしばしばである。このため、資料収集はやや難航しており、現在も当初の目標を十全には達成しておらず、現在も資料収集中の過程である。また、フランスの19世紀後半期および20世紀における労働契約に関する文献資料については、これまでわが国で知られていたものはごく一部にすぎず、多くの資料が日本では光を当てられないまま眠っていることもはっきりした。来年度においては、これらの基本資料にもとづく分析を急ぎたい。 また、フランス、パリ第一大学での3月の研究会の場で研究発表を行った。
|