今年度は、メルコスールの創設による国内市場の開放をはじめとしてメネム政権が実施した様々なや労働フレキシビリティー政策が、労働運動にいかにかかわったか、とく受容と反発を繰り返した労働側の姿勢をどう評価すべきか、を検討した。その際、メネム政権の政策を合理的戦略理論の一種である戦略的選択論に依拠して分析し、この成果は、スペイン語でアルゼンチンにおいて労働運動に関する書物の一部として99年9月に刊行された。こうした視点からする分析は、アルゼンチンでもまだなされておらず、分析の結果、メネム政権の老獪さの一面を浮き彫りにできたことは大きな成果だったと思っている。このテーマとともに、今年度はメルコスールにおける民主主義の問題をNAFTAと比較する作業を並行的に進め、そこでは新たにウルグアイで入手した議会資料を使用した。この研究では、関税同盟という高次の統合を目指すメルコスールの方が、自由貿易協定にとどまっているNAFTAよりも民主主義に熱心であるとする従来の一般的評価とは異なり、自由貿易にもとづくNAFTAの方が、現時点では民主主義促進効果を持つことを明らかに出来た。同論文(英語)は日本アメリカ学会の学会誌で掲載が許可されて、6月に刊行予定である。なお、99年1月のブラジルの通貨切り下げを機に、メルコスール内のアルゼンチンとブラジルとの対立が激化し、アルゼンチン内部ではブラジルへの対応をめぐってセクター間の抗争も見られるなど、99年はメルコスールのもつ制度的な限界が明らかになった年でもあった。この点にかんする考察を国際金融情報センターの中南米研究会の報告書に掲載し、同論文は2000年3月に公刊される予定である。
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