研究概要 |
今年度は、メルコスール諸国における新自由主義的改革への反対運動をアルゼンチンについて分析した。そうした反対運動は多様な形をとっているが、ひとつは国境を超えた広がりをもつカトリック教会との連携を強めることであった。アルゼンチンのカトリック教会は、バチカンが祈自由主義を「野蛮な資本主義」として批判していることを受けて労働者による新自由主義反対運動に積極的な支援を与えており、教会と労働組合との連携はラテンアメリカ政治の新しい局面として注目される。この点は、2,000年7月に発表した「ラテンアメリカにおけるカトリック教会と労働運動」のなかで検討したが、メルコスール4か国のカトリック教会相互間で、特別な協力関係が構築されつつあるか否かに関しては、現時点ではまだ不明である。一方、労働運動の側は、メルコスール諸国間の労働運動相互間の協力関係を一層強め、メルコスールを通して、労働側の利益の増進に努めている。その成果は、労働者保護の宣言や規定がメルコスールの中に盛りこまれたことに現れているが、実効性を伴っていないという問題をはらんでいる。同様の問題が、メルコスールの民主主義に対する取り組みについても指摘でき、その点は、"The First Integrated Wave of Regionalism and Democratization in the Americas:A Comparison of NAFTA and MERCOSUR."(2,000年6月)のなかで論じ、また2,000年11月にニカラグアで開催されたラテンアメリカ研究国際会議でも発表した。そして、メルコスールの社会問題に対する取り組みにおける遅れを、地域のグローバリズムと関連づけながら探ったのが、「グローバリゼーションとラテンアメリカ:アルゼンチンにおける新自由主義・民主主義・地域統合の関連を中心として」(近刊)である。こうした一連の作業を通して、メルコスールの持つ社会的政治的側面の一端を照射し得たと思うが、アルゼンチン以外の国々における労働運勤と統合との関係、教会との関係など今後深めるべき課題は数多い。
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