1.平成10年度はEUと比較したメルコスールの政治社会的意義を探った。そして、民主主義を擁護し、共通の労働法規の制定を目指している点などにおいて明らかにEUの影響が認められること、ただし、社会憲章の制定は、加盟国政府がいずれも新自由主義的政策に沿った労働の柔軟化を目指しているために難しいことを西語論文のなかで論じた。 2.平成11年度にはNAFTAとメルコスールの政治的意義を比較研究を試みた。一般的にはNAFTAが自由貿易協定にとどまり、メルコスールが関税同盟を目指していることから、統合の政治的意義は後者においてより顕著と考えられているが、実際にはNAFTAに加入後のメキシコでは実質的な政治の民主化がおこっている。これに対してメルコスールではパラグアイで軍事クーデターを域内の協力により未然に防いだという意味で、形式的民主主義を擁護する役割をはたしたが、実質的民主主義の進展には寄与していない。この点に着目して英語論文のなかで経済統合のタイプの違いとその政治的意義を探った。 平成11年度にはまた、同年1月にブラジルが実施した通貨切下げが他の加盟国に深刻な影響を与え、とくにアルゼンチンでは廉価な工業製品が国内企業を直撃し、メルコスールへの批判が一部の産業において生じたプロセスを明らかにし、邦語論文のなかでまとめた。 3.平成12年度には、グローバリゼーションとメルコスールとのかかわりを労働運動が如何に捉えているかをアルゼンチンを中心に探った。そして、労働側では、地域統合に伴うマイナスを承知しつつも、グローバリゼーションの方がはるかに大きな脅威だとして、それに対抗するためにメルコスールの枠組みを利用しようとする動きがあることを明らかにし、この点を邦語論文にまとめた。
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