政党政治の眼目は、民主的な選挙において多数を占めた党派が政策活動や立法活動など政府のアウトプットをコントロールするという点にある。本研究はここに着目し、戦後日本の政党政治を政党間の政策競争という点から分析しようとするものである。そのさい、長く野党第一党であった社会党に分析の焦点を絞り、日本の政策政治における野党の競争力とその限界を浮き彫りにしようとした。 いうまでもなく、社会党はほとんど常に野党第一党でありながら、国会におけるその議席は与党の半分程度でしかなかった。そこで、本研究の作業は、まず、社会党がそのような勢力にとどまってしまった理由が同党の政策活動、政策能力にあったのか否か、すなわち、政策競争上の要因によるのかどうかを検討することから始まった。その結果、同党の伸び悩みは部分的には日本の政治文化など政策競争以外の要因に帰せられるものの、かなりの部分はその政策戦略や選挙戦略上の誤りや活動の低調さによるものであることが明らかにされた。すなわち、政党間の政策競争という点から見れば、社会党はその努力と工夫次第では実際よりももっと党勢を拡大できる可能性を持っていたのである。ただ、本研究の手法では、その大きさを数量的に推定することはできなかった。 ついで本研究が行った作業は、五五年体制の形成期における社会党の政策活動を具体的事例に沿って検討し、自民党との政策競争のなかで同党がどのような影響力を発揮し得たのかを検証することであった。これまでの日本政治研究では、政策決定はほとんどの場合与党と官僚機構のあいだでなされると考えられてきた。しかし、本研究の結果、少なくとも55年体制前半においては、社会党の政策活動は政府の政策や政治体制の骨格形成に具体的な影響を及ぼしていたことが明らかにされた 検討すべき事項はまだ多く残されているが、本研究によって、日本においても政党間の政策競争が実質的な意味を持っていることが明らかにされたと考えている。
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